汚れた指輪

行方不明になっていた鉄男が、瀕死の状態で発見されたのは、私鉄沿線の狭いアパートだった。
発見した管理人の話によると、部屋の中は、まるめて放り出された衣類、雑誌やチラシやティッシュの屑、洗っていない食器や食べ掛けの食材などが、ごみ溜めのように雑然と散らばっていて、目に来る異臭を放っていたという。

この部屋を借りていたのは、見た目は若いが間近で見ると３０を越していると思われる女で、いわゆる街娼であった。
その女は、自称エルザといい、夜のラブホ街を中心に客を取っていたという話だが、近隣の酒屋に聞いたところ、かなり前から姿を見ていないという。

鉄男は、数日間ほとんど食事をしていなかった様子で、意識も朦朧としており、何を話しかけても答えず、ときおり口の隅から涎を垂らしながらダアダアと言葉にならぬ声を発するばかりであった。
そうとう体力も消耗しているようだったが、なぜか右の掌だけは非常に強い力で握っており、やっとの思いでこじ開けると、汚れた指輪が一つ入っていた。

鉄男の手にしっかり握られていた汚れた指輪は、いったい誰のものなのか？
それが、この事件の謎を解く鍵になるだろうと見た捜査本部は、さっそく写真とレプリカを持って聞き込みを始め、そんな噂を聞きつけたマスコミやフリーのライターや探偵らしき人たちも、それに続いた。

現在、各方面で収集した「汚れた指輪」に関する情報の主なものは次のとおりである。
　・超カッコよくない？てゆうか、したいし。
　・左手の中指とかにしたら、まぢウケんだけど…。
　・このさ…なに？デザインっていうの？ヤバくない？
　・あ、ウチ持ってるこれ。おんなじ、おんなじ
　・指輪とかダサくないすか？やっぱタトゥーっすよ

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