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摩訶不思議天然色映画

ある港町に出掛けた時のことである。
スナックや居酒屋の並ぶ通りの奥に、古い映画館があった。
建物は古いが立派に現役で、その時も上映中だった。
切符売り場の横の壁には次回上映と並んで現在上映中のポスターが貼ってあった。
ポスターには、こうあった。

『摩訶不思議天然色映画!』
しかし、あるのはこの文字とジャングルだか戦場だかわからない妙な絵だけで、出演者も監督も書かれていない。
『摩訶不思議天然色映画』というのは、映画のタイトルなのだろうか。
それともキャッチコピーのようなものなのだろうか。

しばらくポスターを眺めてから一旦は宿屋に戻ったが、風呂に入ってさっきの光景を思い出すうち、どうしても気になって再び浴衣に羽織掛けで映画館に行くことにした。
スナックや居酒屋はさっきより賑わっており、下品な笑い声や下手くそな歌が響いていた。
映画館の前まで来て、私は目を疑った。
切符売り場の窓口も、次回上映のポスターも同じなのに現在上映中のポスターだけがないのだ。
驚いて切符売りの女性に「さっきまで、ここに貼ってあったポスター、なぜないんですか?」と聞くと、その初老と見られる女はこう言った。
「終わっちゃったのよ」
「いつ?」
「さあ、いつだったっけねえ」
「そんな…じゃあ、この次回上映っていうのは…」
「それも終わっちゃった」
「じゃあ、今は何やってるんですか?」
「さあ…よくわかんないのよね、あたし雇われだから。見てく?」

私は、せっかく来たので仕方なく切符を買って中に入った。
かび臭い場内には誰も客がいなかった。
やがて、壊れたようなブザーが鳴り、場内が暗くなった。
きしんだ音を立てて濃い紫色の幕が開いた。
そして、さっきの女が見たこともないような踊りを踊った。

by Joker-party | 2008-12-13 08:11

冗談会議の怠慢なブログ


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